評価:
有川 浩
角川グループパブリッシング
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桜祭りでにぎわう横須賀に、突如巨大な甲殻類(レガリス)の大群が襲来する。
海上自衛隊潜水艦「きりしお」クルーの夏木と冬原は、桜祭りで遊びに来ていた少年少女13名を保護し、米軍横須賀基地に停泊中だった潜水艦内に立てこもる。
一方、神奈川県警と警察庁は対策本部を設置し、レガリス対策に当たる。
だが、警察の装備では、巨大化したレガリスの大群に抗し切れない。
警察庁から派遣された幕僚団団長・烏丸と県警警備部・明石は、自衛隊の軍事出動を行政に決断させるため画策を練っていた。
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潜水艦内での人間ドラマと、レガリス鎮圧に向けた対策本部の動向が、交互に語られながら物語は進んでいく。
こういう国家的危機に際して、個人的なヒーローが活躍するのではなく、組織力で対抗していく展開が好き。
潜水艦クルーの夏木と冬原は、その名のとおり熱血&クールのコンビ。
同著者の『図書館戦争』シリーズを読んだことのある読者なら、彼らの姿に堂上&小牧コンビを彷彿とさせられるだろう。
彼らが保護した子ども達も、とある事情から複雑な関係にあり、それらが密閉された潜水艦内で顕在化する。
潜水艦内で語られるのは、歪んだ人間関係にある子ども達と、望む望まらずにかかわらず、彼らの問題に関わっていくことになる夏木と冬原だ。
もう一方のストーリーテラーは、神奈川県警警備部の明石警部。
彼は今回の緊急事態にいち早く対応し、横須賀の被害を最小限に食い止める。
やがて警察庁から幕僚団が派遣されて対策本部が設置されるが、その幕僚団団長が烏丸俊哉警視正。
明石も相当にクセのある人物で上からの覚えがまったくめでたくないが、この烏丸はそれに輪をかけた曲者である。
次期警察庁長官の父親を持っていることを引け目とせず、逆に関係者の前で「七光り万歳だ」と言い切ってしまう始末。
おまけにずいぶんと態度がでかくてふてぶてしい。
明石と烏丸は最初から「警察では事態収拾は不可能」という点で意見が一致しており、速やかな自衛隊の軍事出動を実現するためにさまざまな画策を練っていく。
個人的に、前者の潜水艦内の人間ドラマよりも、後者の警察ドラマのほうが興味深かった。
警察サイドのストーリーを読んでいると、「日本という国のかたち」が明確に浮き彫りにされる。
それに明石、烏丸を筆頭に、滝野、芹澤といった己の職分をまっとうしようとする大人達がカッコイイ。
このあたりのことは文庫本に収録されている大森望氏の解説が、私の感想を如実に代弁している。
潜水艦内のドラマのほうは、望と夏木の恋愛よりも、それぞれのわだかまりが解かれていく過程が丁寧に描かれているのがよかった。
特に気になっていた圭介が、ラストで「望というトゲ」がとれて、ようやく新たな一歩を踏み出すことができて安堵した。
「陸」「空」「海」の自衛隊三部作。
舞台設定は『塩の街』、キャラクター造形は『空の中』、ストーリー構成は『海の底』が一番よかった。
全体的な完成度でいえば、この『海の底』が一番かな。